1987年9月1日号のものみの塔に一部の人に衝撃を与える内容の記事が掲載されました。その記事の冒頭はメアリーという架空の人物を用いた次のような問いかけで始まっています。

*** 塔87 9/1 12ページ 「話すのに時がある」―それはどんな時? ***
ある日メアリーは一つのジレンマに陥りました。医療記録を整理していた時に,仲間のクリスチャンである一人の患者が中絶手術を受けていたことを示す資料が出てきたのです。自分が職を失うか,訴えられるか,あるいは雇用者が法律上の問題を抱え込む結果になる恐れがあろうと,メアリーにはこのことを会衆の長老たちに知らせる聖書的責任があるでしょうか。

記事の続く部分によると、この問いかけに対する答えは「はい」です。そして協会はこのようなプライバシー侵害は多くの国で「違法」であることを認めながら、神に従うゆえに、そのような法律を無視すべき時があると告げます。

…個人的な記録の内容を権限のない者に明かす行為を違法としている国が多いのは事実です。しかし,もしクリスチャンが祈りをこめて考慮した末,自分は今,下位の権威の要求には反することになっても,神の律法がわたしに自分の知っていることを報告するよう要求するという事態に直面していると感じるなら,それはその人がエホバの前で受け入れる責任です。クリスチャンには,『支配者として人間より神に従わねばならない』時があります。―使徒 5:29。

エホバの証人の機関誌に載せられた上記のような見解は新しいものではありませんでしたが、公式の雑誌の中に明確に掲載されることによって、特定の人々には衝撃を与えるものになりました。

それは個人情報の守秘義務のある職業についているエホバの証人を雇用している会社や病院にとっては決して小さな問題ではありません。記事では「雇用者が法律上の問題を抱え込む結果に」なる可能性について言及しています。守秘義務を負っている職業は広範囲に及びます。ものみの塔は次のように述べています。

*** 塔87 9/1 15ページ 「話すのに時がある」―それはどんな時? ***
医院,病院,裁判所,弁護士の事務所などでの仕事は,ふつう問題の起きやすいタイプの仕事です。カエサルの法律や宣誓の重要性を軽視することはできませんが,最高の位置にあるのはエホバの律法です。

これは信者を雇用する雇用者や会社に計り知れない打撃を与える可能性があることを示唆していました。会社の中のリスク管理をあつかった Business Insurance Magazine はこの問題を以下のように記事にしました。


ビジネス・インシュアランス マガジン
2004年1月5日 マイケル・ブラッドフォード

雇用者は非常に扱いが難しい問題にさらされることになります。それは信心深い従業員が神の名のもとにプライバシー規定を破る可能性があるという問題です。
テキサス州デニソンで内科医をつとめるジェラルド・ブロック医師は1980年代に起きたある出来事に愕然とさせられました。彼の事務所の女性事務員が教会の長老に患者の情報を漏らしたのです。この女性はエホバの証人として自分の教会仲間の罪深い行いを教会に通報する責任があったのだと認めました。
[情報が漏えいされた]患者は告訴することを告げてきました。ブロック医師の弁護士はその医師に、直ちにその事務員を解雇するよう助言します。それから医師は弁護士から、”患者にすぐに連絡し、患者が求めることはどんなことでも応じなさい。なぜならこの問題で弁護できる点は一つもないからです”と忠告されます。

・・・

”この問題の影響は背筋が寒くなるようなものです”とモントゴメリー保険の教育担当のキャサリーン・ゲーツは述べます。モントゴメリーの代理店のための倫理教育を行っているゲーツ氏は「個人情報を漏らされて訴えられたときのダメージが保険会社にとってどれほどのものかを考えてください。法的にうまく対応できてもできなくても、顧客を失うことになるでしょう」。

ものみの塔が示すガイドラインが、雇用関係にどれほどの問題を実際に引き起こすのかは定かではありませんが、ものみの塔協会のスポークスマンは法律の専門書のインタビューに答えて次のような簡単な解決策を述べています。

ABA JOURNAL 1988年2月
ブルックリンのものみの塔協会のスポークスマン、ウイリアム・バンデ・ウォールは、証人たちは緊密なグループでコミュニティーの他のすべての信者のことをよく知っていると述べてから、秘密が暴露されることを望まない証人たちはエホバの証人を雇っていない法律事務所に行くことだってできると述べている。

法律で定められた事柄を「下位の権威の要求」として退ける可能性がある場合、それはどの範囲に及ぶのでしょうか?それは仲間の罪の報告にとどまるのでしょうか?それとも”神の律法”と解釈されれば、どんなことでも職業倫理に反する行動が許されてしまうのでしょうか?

エホバの証人を雇用する人が抱えるかもしれないジレンマを ABA JOURNAL は次のように説明しています。

ABA JOURNAL 1988年2月

証人の従業員の問題は雇用者にジレンマを生じさせる。もし証人を雇い、職務上得た情報を漏らされた場合、雇用者はプライバシー侵害で訴えられる可能性がある。

しかしもし証人を雇うことを宗教を理由に断るなら、連邦法に違反することになる。

 

記事の終わり