輸血拒否の問題を話し合うとエホバの証人は輸血の危険について話題を出します。ここでは輸血のリスクを中心にエホバの証人が誤解しやすい点を幾つか考えます。


輸血は危険なので拒否するのは正しいのではないか

どんな医療にもリスクが伴います。輸血にはリスクが伴いますが、輸血を拒否するリスクより高いとは限りません。臓器移植にリスクがあったとしても臓器移植を拒否するとは限らないのと同じです。不必要な輸血と必要な輸血を混同すべきではありません。


大量出血しても代用血漿剤や生理食塩水が輸血の代わりになるのではないか

多くのエホバの証人がそのように信じています。確かに大量出血の際に、まず行われるのは循環血液量を維持するための輸液投与(赤血球以外)です。代用血漿剤や生理食塩水を投与することにより血圧を維持し赤血球(ヘモグロビン)が酸素を運ぶ役割を果たせるように助けることができます。しかし血中のヘモグロビンが限界を超えて減少すると酸素を運ぶこと自体ができなくなり輸血が必要になります。もう一つ理解しておくべき事は、そもそも大量出血で病院に搬送された患者は通常上記の輸液がまずは行われているという点です。


無輸血手術は輸血を伴う手術より勝っているのではないか

無輸血手術が可能であれば、その通りです。しかしそれは無輸血で手術が行えるような事例に限ります。例えば心臓バイパス手術(冠動脈バイパス手術)に関してはある病院では89.3%が無輸血です(死亡率は1.7%)。http://www.kouseiren.net/sagamihara/singe.htm)そしてこの心臓バイパス手術に関しては、無輸血手術の場合のほうが急性合併症が少なく術後の回復が早いという報告があります。Archives of Internal Medicine(英文)

しかしエホバの証人が誤解しがちな点があります。それは心臓手術が無輸血で行えるのだから他の手術も無輸血で行えるはずであるという誤解です。「心臓手術」という名前から、いかにも大量出血する危険な手術のように聞こえるかもしれません。しかし天皇陛下のバイパス手術を執刀した天野篤教授は「冠動脈バイパス手術自体はポピュラーな治療で、今回の手術も特別難しい手術ではありません」と述べました。

実際、心臓バイパス手術より、ある種の出産のほうがずっと無輸血で切り抜けるのが難しいのです。その中には弛緩出血、前置胎盤、癒着胎盤などがあります。

エホバの証人の誤解する大きな点は、心臓手術のように出血をコントロールできる事例と、事故などですでに大量出血しているケースを混同してしまっているという点です。エホバの証人は同じ手術でも臓器にメスを入れたり臓器の癒着を剥離するような手術で出血量を予想できないケースが多々あるということを理解しておく必要もあります。


輸血が原因で死亡した人のほうが輸血を拒否して死亡した人より多いのではないか

世界人口とエホバの証人の人口の比率が違うのですから単純に人数を比較することは論理的に間違っています。問題は輸血のリスクと輸血拒否のリスクのどちらが高いかということです。では絶対的輸血拒否にはどのようなリスクが伴うのでしょうか?

出産に関してはイギリスでとられた統計があります。

妊産婦死亡事例に関する調査は、輸血を拒否した女性の死亡率がとても高いことを報告しています。このグループの死亡率は1000人に1人の割合でした。(*1)
“A criterion audit of women’s awareness of blood transfusion in pregnancy” – M Khadra

(*1) 日本の通常の妊産婦死亡率は2万人に1人です。単純に計算すると20倍の死亡率になります

上記の死亡率が日本でも同様であれば、仮に毎年500人のエホバの証人の女性が出産を経験しているとすると、2年に一度は出産時に死亡するエホバの証人が出てくることを意味しています。2007年の新聞に「信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」信者の妊婦が5月、大阪医科大病院で帝王切開の手術中に大量出血し、輸血を受けなかったため死亡した」という記事が掲載されましたが、これ以外にもニュースで取り上げられていない妊産婦死亡事例が多くあるのでしょう。

「出産」のように手術を回避できないケースは明確な数字になって統計を取ることができます。しかし他の病気の場合は、手術そのものをエホバの証人の患者が断念しているケースが多くあるので、輸血拒否による死亡率の上昇を単純に数値化することは難しいと言えます。

そして上記に加えて事故により大量出血したケースを含めると、絶対的輸血拒否のリスクは格段に上がります。


輸血により多くの人がエイズや肝炎に感染してるのではないか

これについては統計があるのでそれを参照します。

肝炎 1万分の1以下
2010年の赤十字の報告によると日本では2010年にはB型肝炎の感染が特定されたものは11例、C型肝炎が2例ありました。感染は減少傾向にありますが、それでも1万例に1例以下の割合で起きると考えられています。
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketuj1108-129_110818.pdf

エイズ 特定できないほど少ない
日本において輸血によりエイズに感染することは現在めったにありません。しかし数年に1度はそのような報告があります。(例:http://japanese.joins.com/article/801/113801.html

感染症以外にも輸血の副作用があります。以下のサイトに概要が記載されています。
http://merckmanual.jp/mmhe2j/sec14/ch171/ch171e.html

いずれにしても輸血にはリスクがあるのは間違いありません。ではこのリスクについてはどのように考えることができるでしょうか?他の医療上のリスクと同じように考えることができます。しかし特定の医療だけリスクを強調するのは不自然です。例えば、ものみの塔協会の「輸血の代替療法」というDVDでは輸血のリスクについて取り上げながら、その流れで「フィブリン糊(のり)パッド」を止血に使うことを宣伝しています。フィブリノゲン製剤は日本でも多くの感染事件を発生させたことで知られています。(フィブリノゲン問題
しかし、フィブリン糊を説明した際に、その副作用については何も触れず、次のように解説が続きます。

「血液分画を含むこの製品は多くのエホバの証人や他の人が受け入れているものです。」
輸血の代替療法 – ものみの塔協会

医療についての正確な知識を与えることが目的であるなら、自分たちが受け入れているか受け入れていないかに関わらず、そのリスクに関して公平に情報を提供すべきでしょう。(*1)

*1 現在フィブリノゲン製剤は他の血液製剤と同様に感染リスクは少なくなっています

結論

輸血にはリスクが伴います。またウイルスは突然変異により進化するので未知のウイルスが血液を通して広がる可能性もあります。ですから出来るだけ輸血をしないのが良いのは言うまでもありません。しかしリスクは常に正確な数字や統計に基づいて考慮すべきです。ものみの塔は最新の統計などを読者に提出することに関心があるわけではありません。例えば、ものみの塔公式ウェブサイトには50年以上も前の情報がいまでも掲載されています

輸血―どれほど安全か
30年前でさえ病理学者や血液銀行の職員には,次のような助言が与えられました。「血液はダイナマイトである。非常な善をもたらすこともあれば,非常な害をもたらすこともある。輸血による死亡率はエーテルの麻酔や虫垂切除による死亡率に等しい。約1,000回ないし3,000回に1回,恐らくは5,000回の輸血で約1回死者が出ると言われている。ロンドン地区では,輸血に用いる1万3,000本の血液に対して一人の死者が出ると報告されている」―ニューヨーク州ジャーナル・オブ・メディシン誌,1960年1月15日号。
公式サイト(JW.ORG)-輸血―どれほど安全か

上記の統計は50年たっている今では挙げられている数値は不適当なものだと言えます。しかし、ここで麻酔や虫垂切除と輸血を比較している点は興味深い点です。なぜなら「麻酔や虫垂切除」がごくまれに死亡事故が発生するからといって、その治療を拒否する人はほとんどいないからです。なぜその治療を拒否する人がいないのでしょうか?それは麻酔や虫垂切除を拒否するリスクのほうが高いからです。

 

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