1日目

さて,ハルマゲドンも終わって無事生き残った。

僕は朝すぐに王国会館に行った。
夕暮れまでには会衆のメンバーがほぼ全員集まった。

数人の兄弟や姉妹の姿がなかった。
主宰監督のT兄弟は「ここにいない人はもっと
奉仕時間を入れるべきでした」と言っていた...

2日目

T兄弟が今朝全員に特別な集会のための召集をかけた。
こんな発表が有った。
「支部事務所に連絡が取れるまで長老団が
住居の取り決め,ルール,労働割り当て
その他全てを取り仕切りますと...」

S兄弟が独裁的な取り決めに異議を唱えていた。
そこでT兄弟は数ヶ月前に日付られた支部事務所から
送られたハルマゲドン後の取り決めの手紙を引っ張り出した。

そこには「ハルマゲドン後は支部事務所の指示があるまで
現地の長老が全ての取り決めの責任者となります」
と書いてあった。
それを読んだS兄弟はそれ以上何も言わなかった。
他のメンバーも新しい取り決めを受け入れたようだ。

はじめのルールは待つ必要も無かった。
会衆の兄弟も姉妹も割り当てを受けるため全員
王国会館で朝8時集合であった。

3日目

今日T兄弟から死体の埋葬の割り当てを受けた。
僕たちみたいな独身の兄弟は皆この気持ちの悪い仕事に
割り当てられている。

そこらじゅうに転がっている死体の光景を見てすぐに
気がめいり始めた。

おまけに鳥や獣が屍に食いつく光景は吐きそうになる。
今日,烏が目玉を突っつき出すのを見てしまった。

本当に気持ちが悪い。

R兄弟はブルドーザーで穴を掘って集団墓地を作って
そこに死体を押し込む仕事,僕は周りからトラックで
死体集める仕事だった。

4日目

今日はじめての審理聴聞会が開かれた。

それはW兄弟姉妹夫婦が丘の上にあるリゾート地の
豪邸にいつの間にか引っ越したときだ。

問題はT姉妹が既に目をつけていた物件だったことだ。

T姉妹は主宰監督の妻として一番最初に選ぶ権利があると
思っているらしい。

T兄弟はW夫妻にそんな勝手な事をする権限は無いと告げ,
その豪邸から出るように指示した。

W夫妻は残念そうだったがしぶしぶ出て行った。

5日目

今朝の集会でT兄弟はびっくりするようなことを発表した。
なんとT夫妻が丘の上の豪邸に引っ越すというのだ。

W夫妻は怒りを何とかこらえていた。

それからその周辺の豪邸は他の長老たちに振り分けられる
とか。楽園でも階級は待遇つきだった。

ある兄弟はその周辺地域を「長老ヶ丘」と呼んでいた。
もうひとつ発表があった。これから家を見つける人は
長老の許可を取らなきゃならないらしい。

僕は自分の家に住むことにした。いくら世の人が
住んでいた家とはいえ勝手に住み込むなんて気が引けて
できない。

人の家に入って個人の持ち物や家族写真などを見ると悲しく
なる。でも他の兄弟姉妹たちには略奪みたいな行為は
気にならないみたいだ。

8日目

今朝の集会で新しい集会のスケジュールの発表があった。

日曜日は公開公演とその後は新しい号が出るまで古い記事の
ものみの塔研究。火曜日は会衆の書籍研究。

奉仕会と宣教学校はもう必要が無いから中止になった。
その代わり金曜日の夜は新しい世でどのように生きるか
教訓する場になった。

なにはともあれ奉仕が無くなってほっとした。

10日目

この埋葬の割り当てがだいぶ精神的な負担になってきた。

こんなに沢山の命を粗末にするなんて,エホバには他に
人を救う方法は無かったのか?

子供が一番かわいそうだ。

あの小さい体に目を向けられなくなってきた。
明日は欠勤しよう。

11日目

今日は割り当てに出なかった。今朝T兄弟が来てどうして
割り当てに出てこなかったか聞いてきた。

僕は「今日は気分が優れないんです」と言ったがT兄弟は
新しい世ではみんな元気だ,仕事に戻れといった。

それから彼は,鬱とかストレスとかは過去のものになって
いるはずだと言ってきた。

当たり前だ,T兄弟は死体を一体も埋めた事が無いんだから。

14日目

もう二週間になる。電気と水道水が懐かしい。いずれはまた
こういうものを使えるだろうか...

R兄弟と一緒に王国会館の発電機を借りた。
テレビとビデオにつなげてスタートレックを見た。
その後去年の野球の録画と。ああ,テレビが恋しい...

15日目

朝の集会のあとT兄弟はみんなの前で昨日のテレビの件を
訓戒し始めた。

その後,長老団からテレビは今後一切禁止とお達しが下った。
新しい世で古い体制のものに汚染される事は許されないとか。

T兄弟はいずれは神権テレビと言うのができるだろうと
言っていた。ものみの塔チャンネルだって?
いい加減にしてくれよ。

20日目

まだ支部事務所から音信は無い。他の会衆の代表とも話す
機会があったが,どこの長老団も旅行は許していないらしい。

W姉妹は隣の会衆にいる姉に会いに行きたかったがT兄弟は
まだここに残るようにと指示していた。

T兄弟は「今はじっとして辛抱しなさい。将来会いに行く
時間はたっぷりありますから」とか。

残酷な言い方だ。

30日目

ようやく死体の埋葬も終わりかけた。ほっとした。

しかし屍をえさにする鳥がまだ空を舞っている。

あの太った気持ちの悪い生き物には我慢ができなく
なってきた。

一匹が僕を突っついてきた。
人間の肉に味を占めたのか。

45日目

大勢の兄弟姉妹が長老の言いなりにさせられるのにうんざり
してきたようだ。

今の生活はまるっきり南アメリカの奴隷時代みたいな生活だ。
僕らは奴隷だ。長老は主人だ。

次の割り当ては集団農園だった。厳しい仕事だ。死体の埋葬
よりきつい仕事だ。

S兄弟が長老たちに労働条件の改善点を要求するため組合を
作っていた。

47日目

長老団にS兄弟の組合の事が発覚してしまった。

S兄弟はみんなの前で訓戒されて悔い改めた様子が見えるまで
彼に話しかけることは誰にも許されない事になった。

楽園にまで排斥があるとは考えても無かった。

51日目

ついにべテルから伝令が来た。若い兄弟が馬の背にまたがって
やってきた。伝令の兄弟はニューヨークが破壊されたから本部
のスタッフは別の市に移動したと言っていた。

今日はじめてハルマゲドン後のものみの塔を受け取った。
これからは三ヶ月おきに発行されるらしい。

会衆のみんなはもう少し自由がもらえるか期待してたけど結局
今のままと変わらない長老が指揮を執るという取り決めが
書いてあった。

残念だ。あと伝令はもうひとつ長老に「新しい世界の組織」と
言うマニュアルを渡していた。

やっぱりその本は長老以外閲覧禁止だ。

69日目

僕の親友R兄弟が今日強制的に“できちゃった結婚”を
させられてしまった。彼がK姉妹と熱烈にキスをしてる
ところを見られてしまったからだ。

審理委員会のあとT兄弟が二人は夫婦であると発表した。
結婚式も何もなく突然だ。例の新しい長老マニュアルに
詳しく規定されているらしい。
R兄弟は2人はセックスはしていないと抵抗したがこの
決定はマニュアル通りであるから従うようにといわれた。

K姉妹はなんかうれしそうだったがR兄弟はショック状態
になっていた。確かR兄弟はK姉妹は石ころみたいに頭が
悪いと言ってた記憶がある。

今となってはもう遅い,あの二人は永遠に結ばれてしまった。

これからは姉妹と歩くときは両手をポケットに突っ込んで
おこう。

80日目

明らかにあの新婚夫婦はうまくいってなかった。 
かなり派手な夫婦喧嘩のうわさも流れている。

今日R兄弟は長老のところへ結婚を取り消しにして
くれと頼みに行った。

しかし新しい組織のマニュアルには結婚解消も離婚も
いかなる理由であっても許されないとのことだ。
それに新しい取り決めでは,どの結婚も先ず会衆の
長老の許可を取らなければいけないらしい。 

81日目

例の組合を作ろうとしたS兄弟が今日復帰した。
まだ納得いかないようだがもう今は黙っている。

89日目

今日は皆ひどいショックを受けた。

R兄弟が自殺してしまった。

やっぱりK姉妹と永遠に生きるなんて想像する
だけでも耐えられなかったのだろう。

長老団は葬式を挙げるなといった。
僕はR兄弟を自らの手で埋めることを願い出た。
T兄弟はR兄弟の死体を世の人を埋めた集団墓地に
埋めるよう指示した。

埋葬するときは誰も来なかった。
やもめになった姉妹さえも来なかった。
僕は親友のために祈った。
彼がいなくなって寂しい。

100日目

僕らにとって生活はどんどん惨めになっている。

長老団は毎日新しいルールを作っている。

彼らが言うには従順と奉仕に身をささげる神聖な生活を
おくらなければならないと。
異議を唱えたり,僕らが話し合いに参加することは
認められない。

古い体制のほうがまだ自由があった。まさか古い体制が
懐かしくなるなんて思ってもいなかった。

111日目

もう我慢できない。

僕は兄を探して旅に出る。
100マイル程先のところだ。

徒歩で行くにはたぶん5日くらい掛かるだろう。
ガソリンがほしい。

長老に見られないようにこっそり夜に出るしかなさそうだ。
旅行の許可はまだ出ていない。

食料もためて今晩出発する計画だ。

兄さんがまだ生きてるといいな。
もし会えたらお母さんとお父さんが生きてるかも確認
できるだろう。

112日目

やっと町から出れた。

いなくなったことに気がつかれてしまっただろうか。

郊外地の破壊はすさまじいものだ,
こんなのどうやって立て直すんだろう。
まだまだ埋葬の仕事は続きそうだ。

113日目

今日隣町の会衆の兄弟たちのグループにぶつかってしまった。

なんと銃まで構えている。

ぼくを捕まえる為にT兄弟が連絡をだしたんだろう。

何てことだ,兄にも会いにいけないなんて。

114日目

T兄弟と二人の奉仕の僕がやってきた。
僕を強制連行するためだ。
なぜか彼らは皆銃を持っていた。
僕のことを相当な危険人物だと思っているらしい。

115日目

僕の逃亡のあと他の兄弟たちも同じ事を考えたらしい。
その結果,T兄弟は武装した警察部隊を結集してしまった。
僕は当然のごとく翌朝の集会で排斥になってしまった。
僕は便所汲み取り係の割り当てになった。

116日目

1日の仕事の後,僕は他の問題児と一緒に王国会館に呼び
出された。その中にS兄弟もいた。

それは1時間の再教育の場だった。
内容はいつもの仕える精神と自分の必要に注目しない事などの
たわごとだった。
また来週戻ってくるよう言われた。

123日目

とうとう今日の再教育集会で僕は爆発してしまった。

僕はT兄弟に
「神権的独裁者みたいな真似なんかもういい加減にしてくれ!
 僕は好きなところへ行く,邪魔をしないでくれ」 と言ってしまった。

それが間違いだった。
T兄弟は武装警察部隊を呼んで僕は逮捕された。

その後王国会館の地下室に投獄されてしまった。

124日目

僕の審理委員会は明日だ。S兄弟が面会に来てくれた。

S兄弟は僕の件で協会に直接連絡してくれたそうだが結局
長老の命令に従えと言う指示が出たらしい。

彼はかなり落胆していた。

125日目

今日が審理委員会だ。

T兄弟が検察側だ。僕は弁護士もいない。

秘密に行われた聴聞会で僕は悔い改めない背教者である
と判決が下った。

背教者に対する新しい世界のマニュアルの指示により
石打ちの刑が言い渡された。

ぼくの処刑は明日だ。

126日目

もうこれで最後だ。明日の昼過ぎには石打ちで処刑される。

できれば銃で後頭部を撃ち抜かれたかった。
でも支部事務所は石打ちのほうが見せしめになると
思ったんだろう。

もし石を投げ返せるチャンスが有ったらT兄弟に当てて
やろうと思う。

変な事に明日処刑されるってのにあんまり悪い気がしない。

新世界社会は僕が思ってたような楽園じゃないし,
こんなところであんな連中と永遠になんか生きたくない。

人類は楽園を失って,見つけて又見失った...

エピローグ

この日だけはみんなが出てきた。子供たちもだ。

T兄弟は僕の死刑宣告を厳粛に言い渡した後聖句を引用して
「その目を悲しませないように」と皆に言った。
それでだれも悲しまなかった。

一番悔しいのが両手を縛られてしまったことだ。
これでは石を投げ返せない。悔しい。

石が投げられ始めると目の前が暗くなってきた。
最後に覚えてるのがいやらしい笑みを浮かべた
T兄弟の顔だった。


そして…

目が覚めた。

天国にいるみたいだ。ふと見上げると聖ペテロが立ってる...

「楽園へようこそ,我が子よ」と言って優しく僕の手を
取った。

僕は混乱した…
「でも楽園はエホバの証人たちと一緒に地上で...?」

そして聖ペテロは説明してくれた。

「あれは地獄です」