はじめに
氷床コアの研究とは南極やグリーンランドなど過去に降り積もった雪が氷床となって積み重なっているポイントで下に向かって掘削し、氷床を円柱状(コア)にくり抜き、その中に含まれる大気成分や水の分子を分析する研究のことです。氷床コアからは過去の大気成分をそのまま取り出すことができるため、長い年月における気象変動を調査する上で重要な役割を果たしています。
氷床コアプロジェクトによる調査から高い精度の結果が出されています。そして気象変動のデータは優に数万年を超えるところまで確認することができるため、聖書が示しているとされる紀元前2370年(ものみの塔による年代)において世界が水に覆われるような大洪水が本当に起きたのかどうかは容易に確かめることができるようになっています。しかも「全天下の高い山々がことごとく覆われる(創世記 7:19)」状態になった大洪水から水がはけるまで1年ほどかかっているので、南極やグリーンランドの氷床に明確な事象を示す証拠を残さないで済むことは不可能(「南極の氷床は地球規模の大洪水を否定する」をご覧ください。)です。わたしたちは客観的な調査に基づく氷床コアの研究結果を認めるなら聖書のノアの時代に世界的な大洪水は起きていなかったという事実を受け入れざるを得なくなっています。
科学者が示す氷床コアの研究は”インチキ”?
氷床コアのデータは一つの国の一つの調査に基づくものではなく、世界各国の科学者によって行われている調査と研究に基づいています。グリーンランドや南極では複数の基地があり、日本も南極の調査に参加しています。通常考えるとそのような各国の調査をすべて「インチキ」として捨て去るのはかなり大胆なことと言えます。
しかしクリスチャンの創造論者の中には世界中の科学者たちが行ってきた「氷床コア」の調査は「インチキ」であるとする人もいます。そのような主張をする人は多くはありませんが、日本語では以下のページから主張の要旨を見ることができます。
聖書の教え – 氷床コア (ice cores) 2016/11/22
http://bible9.blogspot.jp/2016/11/ice-cores.html
上記のページによると、氷床コアの研究は”無神論の世の担い手フリーメイソン作のインチキ進化論で洗脳されたインチキの伝道者となっている科学者たち”によって行われたもので、「P-38, “Glacier Girl”」の発見がそのインチキを論破したとされています。
このような主張がナンセンスなものであることを証拠から示す前に、一つの点を言及しておく必要があります。それはグリーンランドの雪に埋もれた「P-38, “Glacier Girl”」を救出することに関わった人々が上記ページにあるような主張をしているわけではなく、ごく一部のクリスチャン(主に若い地球創造論者)が48年前の軍用機が「263フィート(78.9m)」から発見されたという文章に注目して主張を始めたにすぎないという点です。ですから「P-38, “Glacier Girl”」の関係者はこの主張をしている人々とは異なります。
彼らの主張
上記の”Glacier Girl”の発見に関係してなされる主張は簡単に述べると次のようなものです。
- “Glacier Girl”は48年前に雪に埋もれ始めたにも関わらず80メートル近い深さまで雪と氷に覆われていた。
- 48年で80メートルなら1年で1.65mも氷が堆積したことになる。
- 「1.65m/1年」で計算すると3000メートルの深さでも1820年の期間しかないはずである。
- 科学者が発表したデータの中には3000メートルの深さで10万年以上を示すものがあるが、上記の結論からしてインチキである。
大胆な主張、貧弱な調査
前述のクリスチャンの主張は”Glacier Girl”の発掘に関わった科学者や関係者から氷のデータやレポートから得たものではなく、単なる表面的な数字から計算されたものです。このような主張をしているサイトを見ても、詳細なデータが公開されていません。また”Glacier Girl”の関係者の誰かが氷床コアの研究を覆すような画期的な”発見”をしたと主張しているかと言うと、そのような情報も一つも見出すことができませんでした。では実際にこれらの数字は何を意味するのでしょうか?
以下の図はNSIDCのサイトに掲載されているグリーンランドの積雪量や氷床の厚さを示す図です。(http://nsidc.org/greenland-today/category/uncategorized/ )その中から積雪量を示す図だけを拡大させました。
グリーンランドの年間積雪量
この図に示されているように年間の積雪量は場所によって極端に異なっており、場所によっては10倍以上の差が出ることがわかります。3000メートル付近まで掘削を行う最近のプロジェクトは図でいうと黄色い色になっているエリアで行われています(名称:GRIP、NGRIP、GISP2)。南東の赤くなっている積雪量が非常に多いところでは通常は氷床コアの調査は行われません。特に沿岸部に近いところでは氷床のドリフトが起こり高く積まれた雪と氷は海側に落ちて最終的には海に消えてしまうためそのような場所は選ばれません。
では”Glacier Girl”はどのような場所に埋もれていたのでしょうか?Glacier Girl (P-38) の救出について伝えるニュース映像では以下のように伝えています。
不時着場所を示す地図(動画から)
積雪量を示す図と比較してわかるのは、不時着した場所はかなりの積雪量を示す場所であり、沿岸からかなり近い場所であることがわかります。
さらに考えなくてはならない点はグリーンランドでの飛行機事故は”Glacier Girl”の件だけはないという点です。BOSTON.com の中には近年の他の飛行機の調査プロジェクトについて書かれています。
「第二次世界大戦から70年、グリーンランドの氷の中に救出飛行機が発見される」
Seven decades after fatal crash, WWII rescue plane found in ice of Greenland
http://archive.boston.com/metrodesk/2013/01/14/seven-decades-after-fatal-crash-wwii-rescue-plane-found-ice-greenland/FoqPHcnYyGf0UvY3OF6Z8J/story.html
この飛行機事故では生存者はおらず、場所を特定するためにレーダーと金属探査装置が用いられました。そして黒いケーブルと飛行機の残骸を見つけることができました。どのくらいの深度でしょうか?記事の中では地表から約12メートル(40 feet)のところで発見されました。今回の場合は70年で12メートルです。しかし破損したすべての機体とは書かれていませんので、鉄の重たい残骸部分はさらに深いところに沈んでいる可能性もあります。
発見された場所は”Glacier Girl”と同じく「南東部沿岸」ですが、場所や状況の少しの差によって飛行機の上に積もる雪の量は大きく異なっていることがわかります。
近い条件の場所と比較すべき
氷床コアの研究はグリーンランドだけではなく南極大陸でも行われています。各所で行われる調査結果は連動性を示すものの、1年分の氷の厚さの比率は同じではありません。また同じ場所のコアでも単に深さで年代を測定するのでもありません。
例えば以下の図は南極のロードーム(Law Dome)付近の3か所で氷の中の気体が完全に密封される深度を確認した際の調査個所を示すものです。
この中にDSS、DE08、DE08-2 と記載されている場所が出ていますが、それぞれの密封深度と年数は以下の通りです。(参照:http://cdiac.ornl.gov/trends/co2/lawdome.html)
- DE08 地表から72メートルで年数40年±1
- DE08-2 地表から72メートルで年数40年
- DSS 地表から66メートルで68年
ロードーム(Law Dome)は”Glacier Girl”(P-38)の不時着付近とよく似ており、積雪量が多い沿岸付近です。その地点では地表近くに柔らかい氷床がかなりの深度まで残っています。40年で72メートルですから”Glacier Girl”の数値とほぼ一致します。
もし”Glacier Girl”の例を比較するなら、このような同条件の場所と比較すべきです。
(図は sciencepoles.org から)赤い地点が Law Dome の場所、”Glacier Girl”の場所と条件が似ている。地表近くは柔らかく、深くなると氷の年縞は極端に狭くなる特性を持っている。
このように見ていくと”Glacier Girl”発見のニュースは事実を覆すような何も新しい情報を含んでいないことがわかります。むしろ創造論者が表面的な矛盾をさも大袈裟に取り上げ大胆な主張をする割に、貧弱な調査しかしていないとう事実を示しているにすぎません。
日本を含め各国の専門家が行う調査を無神論者の陰謀であるかのように”フリーメイソン科学者のインチキ”とするよりも、このような”Glacier Girl”にまつわる創造論者の大胆な主張のほうがよっぽど”陰謀”のように映ります。
記事の終わり
最新のコメント
caleb
"オオカミの子供が永久凍土から発見されて、その胃の中から14,000年前頃に絶滅したケブカサイの皮が見つかっています。 https://www.sciencealert.com/puppy-preserved-in-the-permafrost-ate-a-chunk-of-one-of-earth-s-last-woolly-rhinos 他にも人類の出現前には絶滅した恐竜の化石の中には胃の中にあるトカゲが一緒に化石になって発見されてもいます。 客観的な証拠は聖書が示す人間の歴史よりもずっと昔から肉食動物は獲物を探して生きていたことを示しています。 古代の動物が「何を食べていたか知りたい」とのことですが、肉食動物は古代から肉食動物であったことを示す 証拠は多くあります。 それらの証拠はなぜ受け入れないのでしょうか? 数千年前のノアの洪水の前に、すべての動物が草食であったという話は、何の根拠もない空想の話にすぎません。 "
山猫
"ノアの大洪水の可能性は、ゼロだと言い切るのは無理があると思います。逆にそこまで否定するのには、何かあるのかな、と思ってしまいます。洞穴ライオンの発見から既に7年、8年経ちますが、研究結果を報告しません。胃の中の物を調べれば何を食べていたか分かる、と研究者は言っていました。なのに全然音沙汰が無い、何を食べていたか知りたいのです、世の中に公表出来ないのでは?と思ってしまいます。 "
あるぱか
"僕が見た子供向けの絵本にも「船という漢字の中にノアの大洪水の歴史が記録されているんだよ」的なことが書いてあって、なんで日本の漢字に全く関係ないイスラム?ローマ?のことが入ってんだよwって思ったけどほんとに合ってて草。他にも無菌状態で培養液入れても生物は発生しなかった=進化論は否定されたとか言う謎理論も噛ましててビックバンとか諸々はどうしたw(適当に言ってるだけだから間違えてるかも())とか、こういう本は間違い探ししてる分には楽しいですねwただ子供とかこう言うので刷り込まれそう。昔言ってた教会でもしれっとこんな本渡されてたんで宗教って怖いなって思いましたまる(皆がこんなガバガバ理論だとは思ってないですけどこの本の作者さんはあとがき見る限り上に上げた理論?を本気で信じてそうで怖いなって思ったのでコメしました。超長文失礼しました "
caleb
"質問の要点部分にお答えいたします。 >calebさんの生き方の中に、真の喜びと希望と平安は有るのでしょうか? 普通程度にあります。 誰かと比べてどうかという話ではないですが、 わたしが見てきた範囲では クリスチャンとノンクリスチャンにおいて 喜び、希望、平安の度合いにおいて差はほとんどないと思っています。 クリスチャンが優位になる場合は、人が病気で死に直面している場合、 あるいは他の絶望的な境遇に直面している場合など、幾つか考えられます。 しかし生まれてから死ぬまでの日本人の平均的な人生を総合的に見ると、 死後の命の教理(そして死後の裁きの教理がもれなくついてくる) への信仰が人に対して 喜び、希望、平安を持たせる面で 大きな役割を果たしてきているとは思えません。 最後に 科学に対して「過信をする事も禁物です」という点ですが それは全くその通りで、クリスチャンが聖書や神の存在に対して 同じ程度に冷静になれれば、聖書の中の間違いを認めるのも ずっと容易になるかと思います。 "
鈴木 志
"今日は、私はエホバの証人でも無く、どのような宗教団体にも属さない一人のクリスチャンです。 殆どの記事を読ませていただきました。大変の詳しいのにびっくりしました。私の見解と異なるものが多くあるものの、それに対して反論の術のないものもいくつかあります。私もいろいろと調べましたが、結局のところ科学と言うものには限界が有り、全ての事象を正確に説明する事は出来ないと言う事です。 科学をまじめにやっている方ほど、「科学はOOは正しい、とは断定してくれません。科学的に正しい、科学的に証明されていると言うフレーズを使うのは、科学の事を良く解っていない人か詐欺師かのどちらかでしょう。」とまで言っています。例えば京都大学理学・研究科・理学部でも、「科学的に正しいは、絶対的真実と言う事ではありません。」とコメントしています。科学は決して軽んじてはなりませんが、100パーセントの正しさを保障してくれるものでもありまんので、過信をする事も禁物です。 質問をしたいのです。calebさんにとって自分の人生とは一体何ですか?自分とは何ですか?人間の命の尊厳はどこから来るのですか?死に対して真っ正面から向き合えますか?死に対して勝利の叫びを持って望めますか?死の先に希望は有りますか?calebさんの生き方の中に、真の喜びと希望と平安は有るのでしょうか。「主イエス・キリストを信じる私には有ります。」 "