エホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会)はシベリアのツンドラで見つかる凍結したマンモスをノアの洪水で溺れたものだとしています。ものみの塔協会の主張は温暖だった地球がノアの洪水がきっかけで急速に寒冷化し、「特に極地地方で,凍りつくような風が伴い」、大洪水で溺れたマンモスが急速に凍結されたというものです。(創 第17章 203ページ 10節)

以下はその説明の中で掲載されている写真です。

上記のマンモスはベレゾフカ マンモス(Beresovka Mammoth)と呼ばれ北シベリアで1901年に発掘されたものです。実際にはこれは頭部を含めかなりの部分が博物館のディスプレイのために復元されたものです(以下のカラー写真参照)。

このようなマンモスは本当にノアの時代の地球規模の洪水で溺れて凍結したものなのでしょうか?答えは「いいえ」です。その理由を以下にあげます。

溺死と急速冷凍では説明がつかない

まず第一に凍結されたマンモスで体の全体が残っているのはごくわずかで、他のケースでは体の一部だけが残り他は部分は腐肉食動物によってすでに食べられているなど、一様ではありません。これは突然の異変で溺死してマンモスの群れ全体が凍結したというストーリーとは違うものを描いています。

さらに体全体が残っているマンモスに関しても永久凍土の雪渓のクレバスに何らかの理由で落ちるなどして凍結したと考えるほうが自然です。実際上記のベレゾフカ マンモスも上腕骨と骨盤が砕けていました。川辺付近の絶壁で凍土の割れ目に落ちて死んだと考えるほうが合理的である状態です。その様子は溺死して急速冷凍したというものではありません(*1)。

さらにシベリアの永久凍土が広がるツンドラにはマンモス以外にもケブカサイ、バイソン、オオツノジカやネコ科の捕食動物など幾つも生息していたにも関わらず、凍結した状態で見つかるものがマンモスばかりであることにも注目できます。マンモスの生態は現存するゾウから判断するなら足を踏み外して体勢が崩れると立て直すのが難しく、他の動物よりシャーベット状の凍土に足を踏み外したり、クレバスに落ちる可能性が高いと考えられます。それに対してより身軽なシカやネコ科の動物は簡単にクレバスに落ちることはありません。これはマンモス以外の身軽な哺乳類が凍結した状態で見つかることがほとんどない事実と一致しています(*3)。もし動物たちが洪水で一斉に溺死したのであればこのようなバラツキが存在することは考えられません。

怪しい情報

”冷凍マンモス”の情報に関しては注意が必要です。それはノアの洪水を証明することに関心があるクリスチャンによって冷凍マンモスに関して確かではない情報が流されている場合があるという点です。例えばかつてはベレゾフカのマンモスに関連して、冒険隊によってマンモスの解凍肉で宴会が開かれたとか、マンモスの口の中に亜熱帯の植物が残っていたとか、いかにも温暖な気候にいたマンモスがノアの洪水によって急激に冷凍されたことを物語るような話が語られていたそうです。しかしこの問題を調査したWilliam R. Farrand (1961)はそれらの話がデマであることを明らかにしました。Farrandはマンモスの胃の中にあった植物を列挙し、それがすべて北極圏に生息する植物であることを示しています(*4)。ですからこの種の話を教会で聞いたりネット上で発見する場合、その出所をきちんと調査することも大切です。

(*1)https://palaeopathologyfiles.wordpress.com/2015/06/28/what-killed-the-berezovka-mammoth/

(*2) https://ncse.com/book/export/html/2842

(*3) 例外としては2015年に発見された絶滅したホラアナライオンの子どものケースがあります。この場合、巣穴が崩れて土に埋もれて死んだものと考えられています。http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/b/102900047/ 他にもケブカサイ(絶滅種)の例があります。

(*4) https://ncse.com/cej/1/2/common-creationist-attacks-geology