報道の歴史

2002年にアメリカを中心にカトリック教会の性的虐待事件が大々的に報道されました。その頃、エホバの証人の児童性的虐待の問題も欧米のマスメディアを通して幾つか報道されました。その中には以下の特集番組が含まれています。

  • アメリカ NBC Dateline 2002年5月28日 特集番組
  • イギリス BBC Panorama 2002年7月14日 特集番組
  • アメリカ CNN 2002年8月14日 ニュース番組 

このような報道に対抗するためか、ものみの塔協会は2003年の地域大会で「よその者たちの声に用心する」と題する講演を行い、マスコミの報道に警戒するよう呼びかけます。地域大会のその話の筋書きは翌年の「ものみの塔」にも掲載されました。

*** 塔04 9/1 16ページ 14節 「よその者たちの声」に用心する ***
偽りの非難。エホバの証人についてのニュース報道の中には公正なものもありますが,メディアはよその者の偏見のある声を広く聞かせるために用いられることもあります。例えば,ある国の報道機関は,エホバの証人は第二次世界大戦中ヒトラー政権を支持した,と偽って述べました。別の国のある報道は,証人たちが教会を破壊した,と非難しました。幾つかの国のメディアは,エホバの証人が子どもに医療を受けさせようとしない,と非難したり,仲間の信者の犯した重大な罪を知りながら容認している,と非難しました。(マタイ 10:22)とはいえ,わたしたちを個人的に知っている誠実な人たちは,そのような非難が事実無根であることを認めています。

nbcあいまいな表現を使いながらもエホバの証人の組織の問題についてのメディア報道を「事実無根」として完全否定しています。確かに当時報道された事件に関連した訴訟では、ものみの塔協会の責任を認める判決はありませんでした。(カナダの訴訟で1件だけ長老たちへの賠償責任を認めたものがありましたが、それは虐待そのものに対する責任ではなく、長老たちがマタイ18:15-18の「聖書の原則」を適用して虐待された女性と虐待した男性を面と向かって対決させたことによる精神的苦痛に対してでした)。

しかし同時に別の複数の事件に関して、ものみの塔協会と性的虐待の被害者との間で示談交渉が進められていました。2007年にはアメリカのNBCテレビが9つの虐待事件でものみの塔協会と被害者との間で示談が成立していたというニュースを報道します。

  • NBCニュース インデプス 2007年11月21日(日本語字幕付)

示談金の詳細については明らかにされていません。しかしNBCニュースはフレデリック・マクリーンの件に関して示談金の額を入手しています。NBCはそれが 781,250米ドル(6,144万円)であると報告しています。

http://www.msnbc.msn.com/id/21917798/ns/nbcnightlynews/t/new-evidence-jehovahs-witness-allegations/

 

児童性的虐待は多いのか

前述のニュース報道はエホバの証人の間で児童性的虐待が他の宗教団体より高い比率で起きていることを示しているわけではありません。報道件数そのものも他の教会のスキャンダル報道に比べて格別に多いとも言えません。カナダのジェームズ・ペントンはザ・スター紙のインタビューに答えて「児童虐待の問題は他の宗教や団体と比べてエホバの証人の会衆の間で多いわけではない」と述べています。

しかしエホバの証人の組織は神の霊に導かれる唯一の組織であると主張しているのですから、人々はそれに見合うものを組織に期待します。エホバの証人の中には報道されているような事件が組織内で起きていること自体に衝撃を受ける人がいるかもしれません。一般のエホバの証人は「世界的な業への寄付」や「王国会館基金」の一部が児童虐待被害者への賠償金や示談金として用いられていることを知らされていません。

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問題とされる協会の方針

児童虐待を内密にすると虐待者を守ることになる、と目ざめよ!誌は述べています。

「子供が虐待について沈黙を守るとき最も得をするのはだれでしょうか。ほかならぬ虐待者ではありませんか。」 – 目93 10/8 6ページ

しかし組織内で虐待事件が起きると原則が変わるようです。 協会は「聖書の原則」を持ち出します。「識別力の豊かな人は沈黙を守る者である」(箴言 11:12)という原則を児童虐待に関しても当てはめ、虐待の事実を内密にします。(アメリカでは州の法律が聖職者の児童虐待通報義務を規定している場合、長老たちは匿名の電話で通報し、会衆に対しては知らせません。州法で通報義務が規定されていない場合は、誰に対しても知らせません。)

目ざめよ!誌の他の号(目91 10/8)では、児童虐待が被害者の心に癒えない傷を負わせ「深刻な害を及ぼし」「破壊的な影響がある」ことを認めています。そして虐待を受けた人が大人になっても「罪悪感,恥ずかしさ,憤りなどがいつまでも消えず,時にはそれに打ちのめされそうになって思い悩む」状態になることを認めています。

それにも関らず会衆内で起きる虐待事件に関して「ものみの塔」誌が伝える対応の仕方はどこか他人事のように思えます。

*** 塔95 11/1 28‐29ページ 「打ちひしがれた霊」を持つ人々のための慰め ***
もし被害者が告発したいと思うならばどうでしょうか。 その場合,二人の長老たちはその人に,マタイ 18章15節の原則に調和して,その人が告発しようとしている人のところに自分から行って,問題について話すのが望ましいということを助言することができます。もし告発を考えている人が,相手に直接会って話すことが感情的にできないならば,電話や手紙でもできます。そうすれば,告発される人は,告発に対する答えをもって,エホバのみ前で自らの立場を明らかにする機会を得ることになります。その人は,自分が虐待したはずがないことを示す証拠さえ提出できるかもしれません。もしかしたら,告発された人が告白し,和解に至ることもあるかもしれません。そうなれば,本当によいことです。

組織内での児童虐待の対応の方針はこれから変わるかもしれません。最近の法廷外での示談の件も法廷での陪審員による採決の例も、もし協会が方針を変えないのであれば、巨額の賠償金を払い続けることになるかもしれないことを示しています。そしてその費用を負担するのは、事情を知らされない会衆の成員であることに変わりはありません。

 

 

記事の終わり