氷床コアの研究によって数千年あるいは数十万年前までさかのぼっても、世界的な大洪水が起きた形跡がないことが明らかになっています(「地球規模の洪水はなかった – 氷床は語る」を参照)。それでも恐らく反論として”氷床コアの中に洪水の跡がないのは確かかもしれないが、その記録は正確な年代ではないかもしれない”という主張が出てくることでしょう。しかし氷床コアは数十万年までさかのぼる調査結果が出ているため、上記のような反論を有効にするためには、年代の桁を間違えるような誤差が存在していなければならないことになります。

火山噴火と氷床コアの一致

大規模な火山噴火が起きると大量の火山性物質が大気中にばら撒かれます。大きな灰は火山の周辺地域に降ることになりますが、微粒子は大気中を浮遊して火山から遠い場所でも観測することができるようになります。もし氷床コアの年代計算が正確なものであるなら、氷床の中に含まれる火山性物質の体積が各地で起きた大規模火山の年代と一致するはずです。

南極での調査

以下に示すのは南極のボストーク基地で掘り出された氷床コアに含まれている火山性硫酸塩含有量を示すグラフです。グラフの中の点線のラインを超えて上に突出している部分が大規模な噴火を示す火山性硫酸塩の層を含んでいる部分です。

図1:南極氷床コアの火山噴火活動を示す微粒子含有量のグラフ(過去900年分)

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資料:http://www.the-cryosphere.net/8/843/2014/tc-8-843-2014.pdf

では氷床コアの中の火山活動の痕跡は実際の火山噴火の記録と一致しているでしょうか? 答えは「はい、確かに多くの既知の大噴火と一致してる」となります。以下はグラフの中の山の部分(V1~V24)の対応する歴史上の噴火を示す一覧です。

記号 該当する火山活動 場所
V1 ピナツボ火山(1991年) フィリピン
V2 アグング火山(1963年) インドネシア
V3 クラカタウ火山(1883年) インドネシア
V6 タンボラ火山(1815年) インドネシア
V11 不明
V15 パーカー火山+デセプション島(1641年) フィリピン、南極(確定はできない)
V16 ワイナプチナ火山(1600年) ペルー
V17 海底火山クワエ(1452年) バヌアツ
V19 不明
V20 不明
V22 エルチチョンあるいはサマラス火山(1257年頃) 記録なし
V24 不明

 

グリーンランドでの調査

南極と同様にグリーンランドでも氷床コアに含まれる火山性物質の調査が行われています。結果は南極と同じく過去に起きた大規模噴火の跡が表れています。南極との違いは図2で表れている通り北半球で起きたLaki(ラキ火山 アイスランド)とKatmai(カトマイ火山 アラスカ)の噴火で数値が大きく出ている点です。

図2:グリーンランドの氷床に表れている噴火の跡

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https://www.projects.science.uu.nl/iceclimate/karthaus/archive/lecturenotes/2009/fischer/HubertusFischer.pdf

調査結果は客観的に検証されている

これらの証拠を科学者のねつ造であることはあり得ません。なぜなら、これらの結果は再現性があり、いくらでも検証が可能であるからです。実際下の図3が示す通り日本の共同研究チームが新たな基地のデータを加えて再び検証したときにも、細かな誤差を除けば過去の調査と同じ結果がでています。

図3:理化学研究所と国立極地研究所の精度を高めた調査結果(http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140722_2/

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さらに過去までさかのぼる

ここまでのところで過去900年間のデータを紹介しました。しかし追跡可能な年代は900年分だけではありません。以下のグラフで示されている通り、現在から2500年前にさかのぼるまでの氷床の中の火山性硫酸塩含有量が調査されています。

図:グリーンランド(上段)および南極(下段)の火山性微粒子、そして木の年輪の成長率(中段)の比較

https://www.researchgate.net/figure/280714137_fig1_Figure-1-New-ice-core-timescale-of-Greenland-ice-core-NEEM-NS1-topand-Antarctica-ice

このグラフを見ると紀元前425年頃(グラフの左端の”-425″)にすべての折れ線に大きく影響を与えているポイントを確認できます。

ギリシャの歴史家トゥキディデスはイタリア南部シチリア島のエトナ火山噴火によってカターニア地方に大規模な災害があったことを記録しています( Thucydides 3.116)。ヒエロニムスのエウセビオス年代記(jerome-eusebii_chronici_canones_fotheringham_1923.pdf)はこの噴火をオリンピアード第88期の第3年の出来事として記録しています。これは紀元前426/425年を意味しており、グリーンランド氷床の大規模噴火の跡と一致しています。

図:エウセビオス年代記。オリンピアード第88期第3年「エトナ火山の噴火」

これによって少なくとも紀元前425年までは大きな誤差が認められないことがはっきりします。これより先は歴史書の中に大規模な火山噴火の明確な年代が記録されていないため照合させることはできません。しかしさらに下のほうの氷床の紀元前2370年(ものみの塔がノアの洪水の年としている年代)付近を見ても大洪水の跡は全く存在しません。火山灰の微粒子でさえとらえることができるのに、地球を覆いつくしていた大洪水の跡が何もないということはあり得ないことです。しかも聖書によると洪水の水は1年近くも地上を覆っていたと主張されているのです。

 

 

記事の終わり